狂技エアロの女・NO18
(2010.11.14)

ジャンク

それから半年後・・・

夜間の建設中のビルの下で、汗だくで働く男の姿があった。

午前3時30分その仕事は終わった。
1時間後男は自分の部屋にたどり着いた。6畳二間のアパートのその部屋は
ビールの空き缶で散らばっていた。
男は空き缶をかたづける事なく、更に冷蔵庫から缶ビールを出して
勢いよく飲んだ。
その後シャワーを浴び終わると、また冷蔵庫から冷えた缶ビールを飲み干し
倒れ込む様にベットに入り数分で寝てしまった。

朝7時30分目覚まし時計が鳴り響く
男の目は充血していたが、素早く起きた、そして
シャワーを浴びてすぐさま部屋を出た。
地下鉄に乗り男は何度も深い眠りに落ちていた。
ハット目を覚ますと2つ駅を乗り越えてしまった、男は
慌てて次の駅で降りて戻った。着いた駅の売店で栄養ドリンクをまとめて三本
飲み干し、再び歩き始め10分ほど歩くと、大きな体育館が見えてきた。
体育館に着くなり、入口付近の受付で男は証明書を出すと受付の人が男に向かって
「正木広之さんですね」と言ってゼッケン118番を渡した。

正木はエアロの地区大会にのぞんでいた・・・・

正木は斉藤静江の事をきっかけに、以前の会社を辞めた。
今は建築現場で日給8000円ほどのバイトをしていた。
以前の収入から比べると半分以下になり、生活は楽ではなくなっていたが、
それでも、競技とジム通いは続けていたのである。

大会開始後
正木は一次予選を通過できた。
実は正木は前日は最悪の状態ではあったが、この大会に向けては練習をかなり積んできていたのであった。
それだけに強硬なスケジュールでも大会参加を見合わせる訳にはいかなかった。

そして二次予選はステージ上で6人づつおこなわれる。
そこでは、決められた振りの動きに入る前にスプリット、ハイキック、サポート、ストラドルジャンプ、トゥプシュアップなどをじっくり審査される。
正木はそれを難なくこなし、次の振りも納得いく感じで終わった。
そして結果は見事決勝に進出した。しかしこの大会での決勝は演技を競う場であり、演技がなければ決勝出場を辞退と言うかたちになる。したがって正木の場合、決勝進出で演技を持っていないためこれで終了となる。
それはこの大会ではよくあることで他にも沢山の正木と同じく演技を持たないで参加してる選手がいた。
しかし正木には12月にもう一つのレベルが異なる大会で決勝に残り全国大会が控えていた。

大会終了後、正木は仲間同士の打ち上げにも参加せず、
ジムのサウナでゆっくりくつろぎながら、清水香織を思い出していた。
清水香織は一ヶ月前から連絡が取れず、レッスンもやめてしまっていた。
山田と言うあの刑事と上手くいっているのか心配だった。
美容整形でバスト大きくした長谷部良子とも、あれから会う事もなく正木は
半年以上、彼女がいない状態が続いていた。

38にもなって結婚もせずに独身でいると周囲の目が違ってくる。
先月ジムの飲み会で、正木はホモじゃないかって騒がれた。
冗談ではなく根拠があると言うから正木は言った張本人に聞いた。
すると根拠はこうだ、ストレッチの祭に他の男性の会員に腰を押してもらっていたと言う
なんとも馬鹿げた話しにすぎなかった。

それにしてもこのフィットネス業界は意外にホモが多い。
実際正木は男に誘われたこともある、もちろん正木はまったく興味
がないので誘いに乗ることはない。
それにもし正木が正真正銘のホモなら、絶対に隠し通せるものではないと考える。
それは言葉遣いや仕草、日常生活など必ずと言っていいほど癖が所々にでるものだ。

例えば会話の中で、エキサイトしてくると今まで俺って言ってた人が私と言ってしまったり、
座り方や、物のを持つ仕草に変化が現れるものなのだ。
しかも付き合ってる男性がいるとなれば、どこかで一緒にいるところを見られる可能性もあって、
きっと男女の不倫関係を隠す以上に難しいはずだ。

またその飲み会で、一人の男性会員が、上級コースに初心者がきて
しかも最前列にいたために迷惑だったなどの話になった。
迷惑なのはいいとしても、その男性は動きの基本が出来ていないのだから
初心者コースから始めるべきとの言い方に、正木はしっくりこなかった。

エアロの基本をちゃんとできてから、中級、上級においでなんて言う人がごくまれにいるが、
どこで基本を教えているか知りたいものだと正木は常々思っていた。
それはあの初心者コースが基本なんて事は絶対にないし、そもそも
スタジオでエアロの基本なんて教えていない。
エアロは目の前のイントラの動きに合わせて動く、真似る、それだけの事なのだ。
危険な動きをとる人もいるが、イントラの動きを真似してそもそも危険な動きなど存在しない、
あるとしたら、イントラの動きを真似できない自分勝手なエアロになってるだけの事である。
つまり基本ができていないから初心者コースからやるのではなく、真似ができないから初心者コースからやるのだ。

基本や優れた動作ができると言うのは、できる人に見てもらい何度も繰り返し練習を重ねて初めて身につく物なのだ。
ジムでの上級者とは、真似て汗をかくエアロの優等生であって
けして基本や動作が優れている訳ではない。
したがってどんな難度の高い高度なレッスンでもスタジオのエアロに基本など必要ないと言える。

正木は、自分がある程度上手いと思い込み、ジムでのエアロの動作の基本がどうのとか言い出した人は、
一度外に出て、何かスキル教室などのに行けば、スタジオのまわりにも自分にも混乱を招かなくていいと考えていた。

そして、正木はサウナを上がりジムをでた、その時携帯が鳴った同じ競技仲間の大滝多喜子からだった、

続く・・・・